たまたまテレビをつけると、世界を舞台にして大活躍するカーデザイナーの奥山清行氏が出ていて、「世界で通用するためには、最後の踏ん張りは何か」と聞かれたときに、「体力」だと答えていた。彼もぼくと同様アメリカで鍛えられているが、アメリカで教育を受けると、何よりも「体力」が、「能力」よりも意外に重要であることを否応でも教えられるのだ。つまり、いかなる分野でも能力を正確に測定する方法はないから、どんな人にも何らかの能力があるとすればそれを引き出す最大の力が「体力」なのである。これには強靭な精神力も含まれるが、アポなし取材で、何回断られてもあきらめないでいることができるのは、この「体力」であろう。それに、取材が成功しても、原稿の締め切りまで1日しかないとか、極端な場合数時間しかない場合は、体力の限界に挑戦することになる。おまけに依頼された取材が2,3本重なるとなると、文字通り脳みそが割れそうになる。
ジャーナリストの基本
話は変わるが、ジャーナリストの基本はいかにして情報を収集するかにあるが、この情報は一筋縄では入手できない情報である。最近、「あなたのジャーナリストとしての倫理は何か」と知人に聞かれたが、本音は「倫理とは、結果が出せないときに『言い訳』に使うためにある」ということだ。先述した奥山氏が「人よりもモノ」だと言ったときは「モノ(結果)を残すことがいかに重要であるか」ということである。どれほど外見が美しいデザインでも、300キロで車体が浮くような車は失格なのである。機能性がなければ話にならない。取材でも同じで、情報が入手できなければ、話にならない。「そこまで相手のプライバシーに踏み込めないから、この取材はできません」という言い訳をするような人は、ジャーナリストにはなれない。絶対になれない。取材中は、どんな情報でも収集すべきであって、いざ原稿を書くときに、どこまで書くかを調整するのである。家族も知らない秘密を教えられることもあるが、それを書くことはない。ただ、その秘密を知らないと、なぜその人がこんなことをしたのか、という本質が理解できないから、教えてくれる(聞き方による)のだ。
今まで何回も言ってきたが、ぼくのところに来る取材依頼は、そのほとんどが取材拒否にあうものだ。本当は取材拒否しないで、メディアを味方につけた方が賢明であることが多いのだが、相手は突然取材に来られて、パニックになっているので、聞く耳をもたない。警察を呼ばれることもあるが、別に何とも思わない。こちらがきちんとしたメディアであることがわかり、相手の敷地に入っていないことがわかると、ぼくを逮捕することはできないから、とりあえず警察には、あくまでもニュース性について説明することになる。
取材で嘘をつくことは倫理に反するか?
今まで2000以上の取材をしているが、どの取材もみんな同じで、個人的な感情を入れて取材することはない。すべてが取材という純粋な目的であって、分野にも関係がない。相手が、容疑者であろうと、世界的に有名な脳科学者であろうと、ノーベル賞受賞者であろうと、芸能人であろうと、映画監督であろうとすべて同じだ。奥山氏は「逆境こそ成長のチャンスである」と言っていたが、まさにその通りで、取材で苦労すればするほど、知恵がつく。
情報収集の方法も、NSA(国家安全保障局)のような電子的な情報収集はできないから、CIAがやるヒューミント(human
intelligence)に近い方法しかない場合もある。つまり人間スパイを使った諜報活動のことだ。彼らは自分がCIAであることは絶対に言ってはならないので、ジャーナリストなど、身分を偽って、情報収集する。アメリカのABC放送のプロデューサーが身分を偽って、スーパーマーケットにアルバイトとして潜入し、隠し撮りを数ヶ月して、不正を暴いたことがあるが、それは他に不正を証明する手段がないからそうせざるを得なかったのだ。表から取材をしても嘘をつかれることが最初から予想されるからである。
「取材で嘘をつくことは、あなたのジャーナリストとしての倫理に反しないか」ときかれることもたまにあるが、情報収集段階では、CIAの情報収集方法とほとんど変わらない部分もある。潜入取材などその典型あろう。それはジャーナリストと言った段階で、教えてくれないことが最初から予想されるからだ。一回失敗すると、そこでおしまいになるので、そうせざるを得ないのだ。もしそれについて、おかしいという人は、CIAがやっていることはすべておかしいということになる。どんな情報を得るときでもCIAであることを口にしない。だから、ぼくが方法に行き詰ると、元CIAとかFBIの知人に助けを求めることもある。彼らの方法が倫理に反するというなら、情報収集はやってはいけないというのと同じである。調査報道をしてきたジャーナリストが、ある日突然探偵になることもあるくらいだ。
好きでなければできない仕事
ジャーナリストという職業が人にすすめられない理由がよくわかると思う。好きでなければできない仕事は他にもたくさんあるが、ジャーナリストがその一つであることは間違いない。さらにこの職業は、脳の活性化と若返りの効果があることもまた間違いないと思うのだ。常に新しいテーマをこなし、その分野の人に直接会うこともかなり刺激になる。